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見習い魔術師

見習い魔術師

net-3   【砂浜】



・・・いつのまにか。
紅く染まった砂浜は、波が洗い流してしまっていた。
だがそれも、いつものこと。
さしてその男―――バイズム卿、といつだったか名指しされた彼にとっては、気にかけるようなことではなかったが。
彼にとって重要なのは、新たな「侵入者」が来ないかどうか。
来なければよし、来ればそれもよし。
どちらにせよ、成すべきことに変わりはないのだから。

そのときも彼、即ちバイズム卿は、何の気なしにいつもの戯れで、ふらりと外に足を向けただけのことだった。
けれどそのときは・・・なにかが、違った。
奇妙な違和感。
その違和感につられるようにして、バイズム卿は辺りに目をやった。
「・・・?」
砂浜の上に、ただ転がっているだけのもの。
「あれは・・・?」
突如、バイズム卿の隣にズルリ、と不気味な音を立て、「なにかが立ちあがった」。
黒い、液体のようなものが、音もなく揺らめく。
奇妙な沈黙。
突然「それ」は「声を発した」。
「人間・・・でございましょう。昨夜の時化は、少々人間には辛いものだったのかも知れまっせんゆえ」
「・・・死んでいるのか?」
バイズム卿の問いに、「それ」はブルリと「身体」を震わせた。
「さあ・・・、なんとも。我々にとって、人間の発する気は毒のようなものですからな」
「お前達自体も、人間にとっては毒であろうが」
「違いありませぬ」
皮肉った口調をものともせず、「それ」はギシギシと耳障りな音を立てた。恐らくは、笑っているのだろう。
「・・・バイズム様?」
波に洗われ続けているその物体に向かって歩き出した彼に、「それ」は慌てた声を出した。
「確かめてくる」
「はっ!?」
「死んでいるのか、確かめてくると言ったんだ」
足を止めず言うバイズム卿に、「それ」は身体を引きずりながら、必死に追う。そのさらに後を、ズルズルと言うという不気味な音が
追いかけた。




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